透明人間の色
僕が目を見開いている間に、守木は目をそらしてまた前を追いかけ始めた。目標が慌てて車を降りるところが見える。
それを認めた守木はブレーキを危なげなく踏んで、シートベルトを外した。その動作に隙はない。
今、守木が目標を確保する確率は百パーセント。
しかし、僕はどうしても今、引き留めてでも守木に尋ねたかった。
今じゃなきゃ、誤魔化されてしまうような気がして。
「お前は東城美香を嫌ってなかったのか?」
思わず、叫んでる自分がいた。
僕が東城美香に興味を持っていることを知り、東城美香の色々なことを調べて持ってきたのも守木だった。
『ですが、東城美香でしたね』
あの時の守木は、
『彼女はオススメしません』
僕が彼女に興味を持つことを嫌い、
『東城美香の後ろには、紫がいます』
未練がましい僕の目に映る彼女が幻なのだと言い放った。
なのに、今更何を言うんだ?
「東城美香を今は認めているのか?」
「まさか」
こちらを振り返りもしないただただ主に忠実な犬は、それゆえに簡単な答えを見出だす。
「自分の正義は、自分を拾ってくださった蒼様の中にあった正義だけですよ」
犬はたった三日の恩でも一生忘れないという。
守木を拾った時の正義など、僕はとっくの昔に捨ててしまったというのに。
「バカか………」
誰にも届かない独り言。
目標を難なく取りおさえている守木を見ながら、すっと目を細める。
まるで、眩しいものでも見たかのように。