透明人間の色
守木との出会いは、守木の言うような素晴らしいものでは決してなかった。
僕はその前日に初仕事で失敗をしていて、あの人に早朝から事の報告をしに行きその後のこと。
事の顛末なんてもう紫から報告を受けているだろうに、なぜ僕からも言わなきゃいけないんだと、報告が終わっても悶々としいた。
だからだろう。
気がついたら僕は家を飛び出していた。
その日は雨が降っていて、僕は傘なんて持ってなかったけど、外の世界に嫌な感じはしなかった。
夏の雨は、心地がいい。
フラフラと目的もなく歩いていると、歩道橋の手すりに座っている男と目が合った。
それが、守木亮介と僕の出会いである。
「あのー」
先に声をかけてきたのはもちろん僕ではなくて、
「傘いります?」
上からそう叫んできた怪しげな男は、手にした傘をクルクル回す。
「いらん」
せっかく気分が好転してきていたのに、変質者に絡まれるなんてとんでもない。
無視を決め込んで通りすぎようとしたときだった。
「………優しいですね」
気持ち悪い言葉が耳に飛び込んできたのだ。
「なっ」
思わず足を止めてしまったのは、きっと前日のことがあったからだと思う。
「お前の目は節穴か」
きっとこれがあの日の翌日でなかったなら、こんなこと絶対言わなかった。
でも、そのときの僕には、優しいなんて、まるでケンカを売られたのかと錯覚するような言葉だったんだ。
つい感情的になった僕は止まらない。
「僕は昨日人殺しになったんだ。優しいわけがない」