透明人間の色




しまった。

そう思った。だが、口走ってしまった言葉は取り消すこともできない。

こちらを凝視してきた変質者は、人を殺したと主張する小学生くらいの男の子を悪い冗談を言うなと笑ったりはしなかった。

ただ、無表情に傘をクルクル回し続けながら、


「………奇遇ですね。自分も人を殺したんです」


まるで、今にもそのまま身を投げ出しそうな言葉を口にしたのだ。

今からでも遅くない。このまま通り過ぎてしまえばいい。そう思った。関わったらろくでもないことが起こる。そんな気がしたから。


けど、この時の僕はどれだけ腐っていても立派な小学生だった。


「死ぬのか」


そう律儀に聞いてしまうほど子供だった。


目の前で人が死ぬ。

それがなんの根拠もなく悪だと認識するくらいには、子供らし過ぎるくらいの単純な正義を、あの時の僕は持っていた。


「死ぬのはいけないことだと習わなかったのか?」


「………この国は死刑撤廃はされていないんですよ」

「お前のは死刑じゃない。自殺だ」


小学生の僕は無責任な正義を振りかざした。多分必死に昨日の自分を肯定しようとしていたんだろう。




「人は人を裁けない」


それが多分、守木亮介が僕に見た正義だった。



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