透明人間の色
「なっ」
「蒼様、自分はあなたのこの世界を捨てきれないところ、好きですよ」
何を、いまさら。
「あの日、あなたが本当に殺していたなら、多分自分はここにいない」
「………でも、俺はあの時と違う」
「はい」
「この世界を見捨てる」
「はい」
でも、と守木は言葉を紡ぐ。
覚えてますか?
あの日、言いたいことだけ言ってそのまま去ろうとした蒼様に、無言で家まで付いていった自分を見かねたあなたは、自分に言いました。
そのオッドアイが気に入ったから、入れてやってもいいと。
「変な言い分でしたね」
「…僕の犬にふさわしい目だと言っただけだ」
「はい。でも、あなたはあなたの罪を知る守木亮介という人間を捨てなかった」
「別に。死なれたら後味悪かっただけだ」
「殺されるかもしれないのに、裏切られるかもしれないのに?」
「………」
「今も自分を側に置いてるあなたは、結局この世界を完全には捨ててないんですよ」
意外な台詞に返す言葉が浮かばなかった。
「守木亮介は蒼様の犬ですから、捨てられない限り捨てませんよ」