透明人間の色
「………うるさい」
僕はやっとのことでそれだけ返した。
守木はただ笑っていた。何が面白いんだか、こいつはそういう笑い方をする。人に笑われるなんて不愉快なのに、守木のそれにはなんだかくすぐったいものを感じる。
悪くはない。
それから再び車を走らせること数十分後、僕たちはチームFとの合流地点に何の障害もなくたどり着いた。想定通り、まだ僕たちの動きは世間に露見していない。
そのための囮には、今原子力発電で暴れてもらっている。マスメディアや反原発派の政治家は大スクープだと、これでもかと騒いでいるはずだ。
作戦通り。
念には念を重ねてきた僕らからしたら、当然のことのはずなのに心がざわめく。
本当に、このまま遂行するのか。
僕の心とは対称に、僕の手は車のドアをあっさり開ける。
「待っていました」
その言葉通り待ち構えていた男にはっとする。
胸にはびこる問いはその一声に封じ込めざるおえなかった。
なぜなら、チームFの代表として出迎えたのは他でもない紫なのだから。
「当然」
僕は毅然とそう言いつつ、視線を外した。突き刺さる視線を感じても、どうしても振り返ることができない。
この男に後ろめたいことなんて何もない。
そう思うのに、
「それは失礼いたしました」
このわざとらしいほど丁寧な優男を前にすると、自分は何者なのかさっぱり分からなくなってしまう。
その時、着信音がした。
「どうやら、サイバー班からもう連絡がきたようです」
僕はそっけなく頷いた。
もう、戻れない。
ショーは本番間近だ。