透明人間の色
『晶人さん』
驚いた僕を通り越して東城は真っ直ぐ紫を見ていた。唇を噛む僕は負け犬の気分だった。いや、気分とかじゃない。実際負け犬なのだ。
「美香ちゃん」
どうしようもない子を諭すように紫はそう名を呼んだけど、東城はそんなことは気にせずに叫ぶ。
『戻ってきて。今すぐに』
「うん、仕事が終わったら帰るよ」
『晶人さん、私は今すぐに帰ってきてって言ってるの』
『ちょっと、邪魔はするなって言ったでしょ』
『黙ってて』
画面の中で東城ともう一人の女が喧嘩し始める。
「破名、よせ」
『ですがっ』
「美香と話をさせてくれ」
『………』
画面の中の女が一歩引く。それを見て東城は改めてこちらを向く。その瞳からは強い意思が見えた。
『戻ってきて』
「君は我が儘だ」
紫が絞り出すように言ったそれは責めているようでそうではなかった。
強いて言うなら、ただの愛の告白。
「完全に善人になることはできないと偽善者であることを選んだのに、そんな自分を許せない」
それは誰でも知ったようか感情だったけれど、東城美香は異常だった。
「自分が幸せになることを最後の最後で許せない。哀れな女の子だ」
『違う!私はっ………少なくとも今はっ、自分の幸せしか優先してない!』
「そうかもしれない。でも、君には君の譲れない正義があるんだ。可哀想なくらい優しい正義だよ。出会った頃から変わらない。君の両親の葬式があったあの日から」
それは、僕が一時期夢見た憧れた正義と同じ正義の話だった。
僕はあの人の依頼で東城美香の両親の暗殺を目論んだ。まだ小学生だったあの夏。意図的にしくじった僕。それの尻拭いをさせられた紫。
東城美香の両親の暗殺は遂行された。
しかし、東城美香はその日別行動をしていたため、紫は別の日東城美香を殺しに改めてやって来た。
それが、二人の出会いだったという。