透明人間の色
「君は誰かが偽善に晒されているのが許せない人間だ。出会った時も、両親がその対象になってたことをすごく不満に思っていた」
『もう覚えてない』
「いいよ、でも俺だけは絶対覚えてる。その偽善に満ちた世界を汚いと言わずに、綺麗である必要はないと言った君を」
『…言ったかもしれないけど、小学生の戯言よ』
「うん。でも、実際君は偽善が嫌いだけど否定することはない。むしろ、誰かのために偽善者になることを君は厭わない」
誰かを傷つけるなら、自分とでもいうように。
「誰よりも自己中心的でありたいと望むのに、自分を優先できない不器用な子だ」
『………』
「だから、友達と好きな人と僕のパワーバランスが取れなくなったら、君は自分を諦めた」
本当におバカさんだ。くしゃりと笑った晶人という一人の男。
「幸せにおなり。偽善者の君はみんなの正義のヒーローになれるはずだ」
『そんなんじゃないよ、私は。ただ、何か起こってるんだったら、私は晶人さんにはそんなのに関わらず帰ってきてほしい』
「本当に今日の君は我が儘だね。でも、もう分かってるんだろう?………君とはいられない」
『なんで?』
「君の両親を殺したのは俺だから」
男は何のためらいもなくそれを口にした。
東城美香の両親を殺した男とその男に引き取られた少女。
誰も幸せにならないシナリオ。
それを嘲笑うかのような男の愛しげな口調はただ悲しかった。
男と少女の生活は現実とは隔絶した今にも崩れ落ちそうな場所で営まれていた。少しバランスを誤れば簡単に崩壊してしまう。補填しても決して追いつかない。決定的な欠陥がそれを許さない。
それがたった一つ、男と少女の関係性が許さない。
そして、それは僕のせいだった。