透明人間の色
『そんなの』
東城美香の両親を殺すはずだったのは、この僕だ。
『そんなことは』
僕なんだ。
『もういいんだよ』
「えっ………?」
『正義とか偽善とか偽悪とか、そんな曖昧なものはもういい。この世界がどうなったって関係ない。ただ、笑っていたい』
僕の信じた正義は、この世のあらゆる全てを許した。
人は生きていれば誰かを傷つける。それを認めてはいても許せない僕たちの先に立ち、偽善者と蔑まれても微笑む彼女は僕たちに笑うことを望む。
『晶人さんが大笑いしたところ、まだ見たことないから』
東城美香は今までで一番綺麗な笑顔をしていた。なのに、
「美香ちゃん」
ごめんね、と晶人だった男は繰り返す。
「二度と笑えないところだろうと、行かなきゃいけないところがあるんだ」
だから、さよならだ
そう言って通信を切った紫はしんと静まり返ったメンバーを振り返り、苦笑いする。
「大丈夫そうだ。作戦はこのまま決行。各自準備に取りかかるように」
それぞれ無言で頷いたが僕はそこに突っ立ったまま動けなかった。
紫を止めに東城が来る。その確信が僕には会った。嬉しいような、悲しいようなそんな気持ちに襲われる。
東城美香を正義とする僕はこの状況を喜んでいるが、東城美香を慕う僕もいるから複雑だ。
なんて面倒くさい。
やめだ。
「紫」
「うん、なんだい?」
「話がある」
いつか東城美香が言っていた。僕は偽悪的だと。そういう正義のあり方もあると。
ならば、僕はそうあるだけだ。