透明人間の色
「だが、組織を動かしているのは霧蒼じゃない。その母親さ。それがこのおばはんってわけ」
なるほど。言われてみれば霧蒼に似ている。いや、正確に言うならば霧蒼がこの写真の女性に似ているのだが。
「おばはんが霧蒼を祭り上げて日本政府に復讐しようとしてる、そういうこと?」
「そういうこと。いやー、飲み込みがが早いね!」
「それで、今日どうやってそれが成されるの?」
「うーん。それは日本政府まるごと誘拐してお引っ越しってとこかな」
「どういうこと?」
「福島第一原発に国会議事堂を作ろうってことー」
突拍子もない話だった。
彼らがやっているのは正義なんかじゃない。聖戦なんかじゃない。
「………それをして何になるの」
「政治はそこで行ってもらう。内容は全部国民に公開して政府が不興を買えばその場で爆破。日本消滅」
「日本をかけたデスゲームよ」
さらっと告げられたそれは、到底信じられるものではなかった。
「そんなの馬鹿げてる」
「だから正義ごっこなの。ただの復讐に大義が欲しかっただけ」
「そうそう。最初からふざけた作戦さ」
そう肩をすくめる二人に私はなんて言えばいいのか。
「………晶人さんはなんでそんな作戦に」
「拾われたからだよ。おばはんに」
拾われたから。
なるほどと思った。思ってしまった。それは拾われた者にしか分からない感情だ。それだけで自分の何かが救われて、その人が特別になる。
その人がどんなに間違いを犯していても。
「晶人さんも私の特別だ」
今からどんなことが起きようとそれは変わらない。
きっと、この二人にとっても。
「そう。じゃあ、これは知ってる?」
「何?」
「あなたが度々頼まれて集めた子供たち、ただ塾に入ったんじゃないわ」
「どういうこと?」
「晶人にとって体のいい駒に育てられた。このマンションで」
「見かけたことないわ」
「もちろん。あなたにはバレないように管理してた」
それもそうだろう。思えば、ここに住んでいて他の住人に出会うことは少なかったような気がする。
見ない振りをしていた代償は大きい。
「じゃあ、あなたたちと一緒に今その子たちを説得すれば味方が増える?」
「子供を使おうっていうの?」
「………それは、そうね」
私が元々その子供たちを巻き込んだのだ。知らなかったなんて甘えたことは言えない。
「それにここにはもういないわ。作戦遂行中よ」
「なっ!危険じゃないの」
「危険ね。この作戦で生きて帰れる人はいない設定だもの」
「なにそれ………」