透明人間の色
世の中子供から大人まで全員が全員汚いのだと、絶望したりしない。
だって、
私は綺麗だからとか。
あの子は汚いかもしれないけど、他の子は私と同じで綺麗だからとか。
普通はそう思えるはずだから。
さっき楓に嫌いな人なんていないんじゃないかと言われたとき、そんなことはないと叫んでしまったのも、同じようなことだった。
私は誰に対しても平等な善人であろうとしている、世間一般のただの偽善者。そんなことは自分でも分かっている。でも、そんな自分が死ぬほど嫌いだ。この世で一番嫌い。
本当の私は自分が安心できる日常が一番大切なのであって、達也や楓、花、晶人さんでさえもその日常を形作る一つのパーツとして大事にしてるに過ぎない。
私は誰一人として好きでも嫌いでもないのだ。強いていうなら、自分が一番かわいくて、そんな自分が大嫌いというだけ。
だから、楓が無邪気に言い当てたそれは私のパンドラの箱を叩くことになった。
「………」
目頭が熱い。私は世界から目を閉ざした。
本当は、お金を無駄遣いしたくないから、楓を誘いを受けて用事に付き合ってもらうのを止めたわけじゃない。
お金なんて言い訳だ。
今日のアイスクリーム代で目的が達成されるなら、別に安いものだったし、それが晶人さんのためになるなら、尚更だった。
本当は、楓と一緒に行けば達也にバレる可能性があるからというだけで、それが楓を誘わなかった唯一の理由だった。
なにせ、これから私はイケメンをナンパするのだ。
別に達也と私は付き合ってるわけじゃないし、バレたってイケメンをナンパしなければいけなかった理由を説明すればいい話。
なのに、私は達也にだけはこの事を知られたくなかった。
そして知られたくないという感情さえ、誰にも知られたくなかった。
何が私の日常を壊してしまうか分からないから。
だから、言い訳に言い訳を重ねた。誰かに本当の心を悟られないようにするため。
自分自身でさえ、パンドラの箱の中身を悟らせてないようにするため。
___帰ろう。