透明人間の色




バスに乗って、ボーッとして。いつの間にかマンションの十八階までエレベーターで上っていた。

マンションは高校生が一人で住むにしては、値段が張りすぎている。セキュリティが良いところに住みなさいと晶人さんが見つけてきた物件だけど、何だか申し訳なかった。

指紋認証で開いた部屋に私はため息をつく。

このままソファに座り込んでしまいたかったけど、そうすると今日は立ち上がれない気がして、私は真っ直ぐリビングをつっきって、自分の部屋に向かった。

そして、ナンパするための服を決めようとクローゼットをあけて、私は愕然とする。


「ジーンズとTシャツしかなかったけ………?」


そう考えれば、最後に私が服で着飾ったのは本当に昔のことに思える。

晶人さんもお洒落してとは言わなかったし、わざわざ私に服を買い与えたりはしなかった。


きっと、私がそういうことに興味がないのを知っていたんだろう。

代わりのように本屋にはよく連れていってもらったように思う。


しかし、これでナンパは可能なのだろうか?
しかも、相手はイケメンだ。


「………なんか、買おう」


私はそう決めて財布を確認した。
三千円と小銭が少し。

服くらいは買える。
と、勝手に憶測するもやはり普段買わないから自信はなかった。

私はある引き出しを開けた。
そこには札束が三つ。全く、ここは普通の女子高生に似合わないものばかり置いてある。


「とりあえず、一万円あればいいか」


札束から一枚、諭吉を抜いた抜いた私はジーンズとTシャツに着替えて鞄を掴むと、そのまま部屋を出た。

オートロックの閉まる音に見送られ、エレベーターのボタンを押す。

ボタンは好きじゃないが、わざわざ十八階から階段を使うほどの理想主義者ではない。

その時、私の隣の部屋からジャージ姿の男の子が顔を出した。多分中学生くらいだろうと思っている。でも、ここに住んでもう二年以上経つというのに、この子はよく見かけても親は見たことがなかった。

まあそれは、ただタイミング的に合わないだけなのかもしれない。

だから、私はその男の子のことはあまり気にしていなかった。

エレベーターを同乗してエントランスを出れば、ほらお互い別々の道を歩いていく。きっと友達の家にでも遊びに行くのだろう。



やっぱり、彼は普通の男の子だ。



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