透明人間の色



「美香っ、今日あいてるー?」


視線を前に戻さなくても、満面の笑みを浮かべた楓がこちらを期待の目で見ているのは分かっている。

私もそれに答えるべく、楓と視線を一瞬合わせた。

「うん。あいてない」

平淡なその声には少しの罪悪感も含まれていないようにも感じるが、すぐに外してしまった視線が私の少ししかない後ろめたさを楓に感じさせたのだろう。

「じゃあ、明日は?」

私の机に手を置いて、勢い余ったのかこちらに乗り出してそう聞いてくる。

全く、諦めの悪い。

「あいてない」
「明後日っ」
「あいてない」

そのあまりのしつこさに私の後ろめたさは消えていく。残るのは面倒くささ。

「そんなに美術部って忙しいのー?」
「んなわけねーじゃん」

楓のしつこい質問に答えたのは、私ではない。

「達也くん」

楓には見えていて、私の後ろに立っているであろう達也だ。

「聞いてよ。美香が遊んでくれない」
「いつものことだろ」
「そうだけど」

言葉を切って頬を膨らませてみせる楓。私は何気なくそんな二人に向けて提案する。


「じゃあ、達也と行ってくれば?その新しく出た夏限定のアイスクリームを食べに」


「は?何言ってんだよ。週一しかない美術部と違って、バスケ部は年中無休なんだよ」
「えっ………週一?」

目を見開いた楓。私はため息をつくのを我慢して、その代わりのように達也を睨み付けた。

「なんだよ、事実だろ?」
「裏切り者、世の中言って良いことと悪いことがある」
「…美香。お前、その台詞は自分のために使うもんじゃねーよ」

私の答えに達也はそう笑いながら、お手上げとでも言うように両手を上げて見せる。

私は達也にもう一言返そうとした。

「__ねえ美香、ホントなの?週一って」

私は顔を伏せている楓が珍しく静かな口調なので、楓が本気で怒ってるのだと思った。

「………だったら?」
私が曖昧にそう返す。

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