透明人間の色
1 変な出会い
「男ウケのいい服、ですか?」
店員は戸惑った顔でこちらを見た。
でも、他に言いようがなかったのだから、仕方がない。
それにイケメンをナンパしに行くから、必要なのだと説明しても余計変な目で見られるだけだ。
ジーンズとTシャツのすっぴん女が、なぜそんなことを言うのか、店員の疑問はそれだけでいい。
「えーと………こちらなんてどうですか?」
私が答えないのが分かったのか、適当に見繕った店員がそう言う。
フリルの花柄ワンピース。
やっぱりそう言うのになるのかと思いつつ、私は笑みを店員に向けた。
「じゃあ、それを買います」
驚いた顔の店員に私は笑顔を崩さないまま、鞄ををまさぐって財布を見つけ当てる。
「一万円で足りますか?」
「はっはい。七〇九八円です。レジまでご案内いたします」
「はい」
会計を終えて私はトイレの個室でそれに着替えた。元々着ていたのは買った時に貰った店のロゴの入った紙袋に入れる。
個室を出ると大きな鏡にアホ面の自分がいて笑った。
「似合わな」
自分が特別ブサイクなわけじゃないとは思うけど、やはりこんな格好は違和感しかなかった。
スカートが短いとこんなにも落ち着かないものなのかとも思う。
私も楓も制服のスカートは折らないタイプなので、どうもこういうのは慣れなかった。
私は可愛くて細い子が自信満々にスカートを短くしているのを見ると、どうしようもなくスカートを押さえてあげたくなる。
本人が好きでやっているのだからいいじゃないか。そう思うのに思えない。
少なくとも上りの階段で、楓の後ろに男子がいるなら、私はその間に割って入りたくなるだろう。
そして、自分のそういう所を偽善だとつくづく思う。
どうでもいいと思っているのに、誰にでもいい顔しようとしてるのが、浅ましい。汚くて、醜い。