透明人間の色
嘘だった。
本当は私のなかに一番想ってる人なんていない。
これは晶人さんにも秘密の話だった。
だからといってこの男に本当の私が罪悪感を持つことなんてない。もし、この人がとてもいい人だったとしても関係ない。それが私だ。もし、晶人さんに達也が一番想ってる人だと言ったことを知られたら後悔することになるんだろうけど、考えられる負の要因はそれだけで、今はそんなこと考えられなかった。
いや、考えなかった。その方が正確だ。
頭のなかがグチャグチャしていて、深く考えてしまったら泣き出してしまいそうだから、考えなかった。そっちの方がしっくりくる。
その代わりのように、閉ざしていた口は一度開くと止まらなかった。
「あんたなんかよりずっと見た目も中身もイケメンだし、こんなところに紛れ込んでる女の子がいたら、ナンパするんじゃなくて、きっと家まで送り届けてくれる」
男がどんな顔をしているのかは見なかった。
本当の私がどうとも思ってなくても、きっと偽善者の私は傷つけることに傷つくから。
男にしてみれば私に指摘されることでもないだろうし、ここがナンパスポットだって私は分かってここにいるのだ。
そう思ったら急に冷静さが返ってきて、私は首を振った。
「………もういいでしょ。ごめん、どっか行って」
無責任なごめんは言いたくないけど、この男にふさわしい気がした。
沈黙と共にうつむいていると、目の前にあった足が遠ざかる。
たぶん、イケメン探し一日目は失敗に終わったんだろう。
明日もこんなところに来なきゃいけないのかと思うと憂鬱だった。
今まで晶人さんのお願いにこんな負の感情抱いたこともないけど、今回ばかりは止めてしまいたかった。
でも、晶人さんがその事で私を見捨てるかもしれないことを考慮すると、止めたいなんて、そんなことは言えない。
明日は学校休んでしまおうか?
でも、楓の顔が浮かんでまた憂鬱になる。
最近不思議なことに何度も思うことがある。
偽善なんか止めて完全な悪になりたいと、そう思う時がある。
まあ、そんな生き方出来ていたら、とっくに達也とか楓とかとなんて一緒にいないんだろうけど。
とにかく、その思いは思うだけで実行はされない。
思っててもやらないなら、何も思ってないのと同じだ。なんて言葉、誰が考えてしまったんだろう。
とても憎らしいくらい正鵠を射ているから、すごく嫌だ。