透明人間の色
「………名乗る筋合いはない」
確かな沈黙のあと、男の子は答えた。
「あっそう。でも、東城は私の名前でしょ。なぜ知っているの?」
「………さっきの変態オヤジに見つかる。こっち」
私の質問をまるで無視して、路地裏の奥へと勝手に手を取って歩いていく。
私はその腕を振りほどこうとして、男の子の方はまるで見てなかった。
やがて、男の子は止まってカメラの男を見た。カメラの男が頷く。
私の腕は解放された。
私は人目を気にせずため息をつく。
今日は本当に色んな人に不本意に掴まれる。
ため息くらいは許されるはずだ。
「で、なんで私のことを知ってるの?」
質問を繰り返したのは、お前のことを呼んだんじゃない、カメラを持った男のことを呼んだんだと、そうどうしても言って欲しかったからだ。
私と同じ東城さんに会いたくないのは、ほんのちょっとの願望だ。それが叶わなくても私の名前が大切なのは変わらない。
でも、知らない人が私の名前を知っているのは怖い。
「___さあ」
明らかにあった間は、私の求める答えではなかった。
「長居は無用です。行きましょう」
「あぁ。そうしよう」
カメラの男の呼びかけに応じた男の子は、路地裏へと消えようと私に背を向けた。
そしてその瞬間、もっと言えば男の子の背を見た瞬間、私は教室にいた。
「もしかして__」
私が無意識に呟いたそれに男の子の足が止まる。
「邪魔な、あの窓際の人?」
いつもの教室の窓を眺めているときに、常に目に入るその人は、確かに目の前の男の子のような後ろ姿だったように思う。
「私のクラスメート?」
二度目に私を振り返った彼は、なんとも言えない顔をしてこちらを見た。
私に知られていて、良かったのか悪かったのか微妙といった顔だ。
「やっぱり、そうなんだ」