透明人間の色
「………だったら、何?」
「え?」
「東城は僕たちのことを見た。正体も知ってる」
「うん?」
「だから___黙っててくれるには、どうしたらいいのかな?」
少しイライラしたような口調は、早く言えと急かしている。
どうやら私はクラスメートの見てはいけない場面に遭遇してしまったようだ。
私が二人について知っていることといえば、今ここにいて私が絡まれている写真をとっていたことと、二人のうちの一人が同じクラスの人だったというだけだ。それは正体を知っていると言えるほどのことでもない。
でも、それが交換条件を生むなら大歓迎だ。
「えっと…私のこと今撮ったよね?」
「うん。まあ、君の顔はちゃんと映らないようにしてあるけど」
「じゃあ、それは私だってバレない?」
「うん。東城と僕たちが言わなければ」
私はそっとため息をつく。良かった、バレない。
バレちゃまずい相手が誰かは言わないけれど、良かった。
「じゃあ、私はクラスメートくんのことは黙ってるから、クラスメートくんとそのカメラさんは私のこと黙ってて」
「………分かった。本当に秘密にしてくれるんだな?」
「あっ、うん」
どっかの議員の酔っぱらい写真をクラスメートがとっていたところで、私には何も関係ない。
まあ、どうしてそんなことをしているのか、少しだけ好奇心は湧くけど。
「じゃあ、それだけちゃんと守ってよ。………一人で帰れるわけ?」
ふと思い出したようにそう聞く彼。その言葉に、私はようやくもう一つの目の前の現実に気づいた。
「あー、今何時?」
「午前零時三十分です」
カメラ男が口をはさむ。
残念ながら終電はもうない気がする。私のマンションまでのタクシー代はもうない。でも、この二人にどうにかしてもらうのも癪だった。
「終電はもうないよ。良かったら送ってあげるけど」
私の考えを呼んだようにそう言うクラスメートくんは、なんだか偉そうで嫌な感じだ。
そういえばカメラの男の方が年上に見えるのに、男の子の部下のような感じがする。
どこかのお坊ちゃんかとも思ったけど、こんな時間にカメラ片手にウロチョロしていると思うと、なんだか私の金持ちのイメージとは違う。
この人たちは一体何なんだろう?
気になる。
でも、交換条件には、暗に二人のことを探らないという条件も絶対含んでいるのだろう。
私は今日この日を忘れなければ。
「いいえ。一人で帰れます」