透明人間の色
「ねぇ、楓」
「なに?あっ、あれ!呼んでみただけってやつ?」
「違う。あの人、なんていう名前なの?」
ナンパに失敗してから、ちょうど一週間が経った。
未だにイケメンは見つからない。見つける努力をしなかったと言った方が正しいが。
それもこれも、きっとあの二人組を見てしまったからだろう。あれ以上なんてそうそう見つけられるはずもない。こうなったら、もう一度会ってダメもとでやってくれるか訊いてみるべきか。
そんなことを思えるほど得体の知れなさは時間と共に薄れて、代わりに楽な考えかだけが頭を支配していく。
でも、あの日以来今日まで彼は学校に来なかった。その間、世間で話題のニュースとして私に絡んできた議員の男の汚職が発覚が連日報道された。
そのニュースを見たときは、背筋がゾクッとしたのを覚えてる。
議員を追い詰めるなんて、普通の高校生がやるようなことじゃない。
しかし、私が知っている教室の彼といえば、窓際にいつも居る邪魔な存在であり、今観察している限り昼休みを友達としゃべることもせず、パン片手に何かのプリントを見ている。
物静かな男の子と思えば、別に普通の高校生だ。
だから、ますます謎だった。
いや、うるさい目立つクラスメートだったとしても、それはそれで意外なんだけど。
私にしては珍しいほどの好奇心。それがどこから湧いてくるのか私はまだ知らない。
でも、探りを入れるのは無しでも、クラスメートとして名前くらいは聞いてもいいはずだ。
本人には名乗る筋合いはないって、はっきり言われてはいるけれど、多分いいはずだ。
「あー、あの人?美香がいっつも見てる」
「え?」
楓が意外でも何でも無さそうに、しかもどちらかと言えば、面白くなさそうにそう言ったから、私は首をかしげた。