透明人間の色



その日の放課後は何を描くわけでもなく、美術室に立て籠っている。

誰とも一緒にいたくなくて、でも独りは淋しくて、花しかいないここはうってつけだった。

花もそんな私に何も言わないし、私も花に何も言わなかった。でも、お互いに理解し合っているのかと言えば、全くの真逆で、私たちは何も分かり合っていない。


それが私と花の空間だった。


でも、この日私はその境界線を自ら越えてしまうくらいには動揺していた。


「………花の描く絵は静かだね」
それは前から言葉にしてみたかった台詞で、だからするりと口から出た。

でも、しゃべる内容なんて本当はどうでもよくて、ただ花と話をしていたかったのだ。

でも、花は私の言葉が聞こえてないのか、こちらを見ようともしない。

別にいつも通りだ。
だけど私はいつも通りじゃないから、それが今は苦しい。

だから、もう一度口を開いて花に同じことを言おうとした。

その時だ。




「美香の描く絵は平等だよね」
そう幻聴かと思えるようなか細い声が返った。


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