透明人間の色
それから三日、イケメン探しは難航していた。
いや、もうすでに私は彼に話しかけることを決めていたのかもしれない。
達也のことが吹っ切れた今、私に出来ないことはなかった。
「霧蒼」
放課後の廊下、帰ろうとしていた彼の道を阻んだ私は、この三日の内に用意していたものを淡々と述べる。
「手伝ってもらいたいものがある」
霧蒼は三十秒ほどこちらを見たが、その後は何も言わずに私の脇をすり抜けていく。
私はその後ろ姿をただ追った。
霧蒼は黒髪のどちらかと言えば華奢な男の子だ。目は冷たいし、何を考えているのか読めない。
それに笑うのかどうかすら、怪しい。
この人生がつまらなさそうな人の見本のような男の子の一体何が、あのニュースに繋がるのか。私にはまるで分からなかった。
「で?」
彼は誰もいない物理教室に入るなり、私を見ようともせずそう言う。
私は促されたのが何なのか分からなかった。
「………なに、しゃべれないの?」
「違うわよ」
「じゃあ、さっさと言ってよ。何を手伝えっていうの?」
それは手伝うことを決めてもらってからじゃないと言えない。しかも、今回の場合は晶人さんに合格をもらわないことには始まらない。
この場で言えることはなかった。
「………ある人に会ってもらいたい」
「誰?」
間髪を入れずに答える霧蒼。言わない限りはきっと手伝うなんて論外だろう。
「私、今イケメンを探してるんだけど、あなたの他に頼める人がいなさそうで困ってる。迷惑だと思うんだけど、手伝って欲しい。内容はまだ言えないんだけど、決して怪しい仕事ではないから」
言える範囲を模索しながら言っていくうちに、私の願いと反して顔を険しくする霧蒼。私の声は段々と小さくなり消えてしまう。
そんな私に霧蒼はため息をついた。今までは考えたこともなかったけど、人にため息をつかれるとなんだか自信を喪失する。
私までため息をつきたくなってしまう。
でもそうする前にさらに霧蒼は私に背を向けたのだ。
「じゃあ、それをしなくちゃいけない理由は?僕に何のメリットがあるわけ?」