透明人間の色
「………」
「ないの?」
「………」
「じゃ、僕はそれを手伝えない。今後僕の帰りを東城が阻んでも無視するつもりだから、よろしく」
それだけ言って、拳を握りしめた私を置いていく。
物理教室のドアが無情にも閉まった。
「………とりつく島もない、か」
理想を一枚剥がせば、黒一色に染まった私の世界があった。でも、今は黒さえ存在しない世界に取り残されている気分だ。
どうせ失う色ならば、最初から存在しなければいいのに。
そう思った時、ドアの音がして顔を上げた。
「きり、そ…う?」
真っ直ぐこちらを見る霧蒼がいる。
驚き、期待、不安が私を支配した。
でも、そんな感情など忘れてしまうような台詞を、霧蒼は何の躊躇もなく裁判官のように淡々と告げるのだ。
「___東城には失望した」
今度こそ戻ってこないだろう彼によって再び閉められたドアの音は、一度目よりもこの私しかいない部屋に、大きく響いて聞こえた。