透明人間の色
1 夢見た人
「蒼様」
守木の車は知らない雑音のような音楽が流れていて、僕は少しイライラしていた。
大体、こいつが次に言い出すことは分かってるんだ。
だから、
「………くだらない話はするな」
そう先手を打つ。
が、このうるさいのは主人の意向を平気で無視するのだ。
言うなれば、読んでいる新聞の上に澄まし顔で座る猫のように。
「東城美香のこと、どうしてお受けに?」
ほら、きた。
僕は見せつけるようにため息をつく。
「言ったはずだ。くだらない話はするな」
「くだらない話はしてませんね」
守木は生意気にも僕の方を見ようともせず、急な方向転換にハンドルを切る。車はガードレールのスレスレを行く。
車内が大きく揺れた。
だが、それだけ。
僕はミラーに映る自分の不機嫌そうな顔を見て、さらに顔をしかめた。
守木と一緒にいるのは、主人の言葉をまるで無視して、新聞の上で毛繕いし始めた猫を見ているようなものだ。
主人が本気で怒ることがないことを知っているような、そんな生意気で計算高い猫。
「では、質問を変えましょう」
「………」
「東城美香のことをいつから知ってましたか?」
そんなの知るわけないだろ。
多少は引っ掻いても、後で舐めてあげれば許してくれると思ってる、あざとい飼い猫め。