透明人間の色
「東城美香様のどこに魅力が?」
「黙れ」
「答えて頂ければそうしますよ」
くそっ。
僕は猫の座る前の座席を蹴る。
そこで初めてミラー越しに目が合った。
実はこの目の合う瞬間がたまらなく僕は好きだ。
この瞬間だけ、僕はこの猫を支配している。
守木の目は罪深いオッドアイだった。
「…蒼様が東城美香にうつつを抜かしているから、こうして追うはめに合っているんです。邪魔しないでください」
「………」
僕は答えずにその目だけをじっと見つめていた。
だって、そうすればいいことを知っていたから。
「なんですか?」
視線を先に外したのは守木の方。別に追っている車が気になったわけではあるまい。
「分かってるクセに」
「分かりませんね」
もう一度僕は守木の座席を蹴った。
それでもこちらを見ることのない守木。上等だ。
「主人の多くは飼い猫を本気で怒ることはない」
なぜなら、怒っても仕方のないことだと、主人はきちんとわきまえているから。
「だが、猫を捨てることはある」
オッドアイが僕を捕らえた。
「___その猫がバカなだけですよ」
一見、無表情の守木。
だが、言葉に反して車がガードレールに少し擦れる音がした。
残念だが、守木は家に住みつく猫ではない。
主人に捨てられることを恐れる犬だ。