透明人間の色
「守木、余所見するな」
「………」
守木は前を見て押し黙った。
それを見て、満足感と罪悪感が僕を襲う。
守木は今までもこれからも僕の大切な忠犬であることに違いはない。僕が何も考えずに思いついたままを言える唯一の存在だ。
僕らがこの関係になってもう六年になる。
互いに秘密なんてなかった。
それが数ヵ月前から、僕は東城美香のことを守木に隠す羽目になっていた。
知られた今も、これ以上は知られたくはない。
守木の勘づいている通り、僕は繁華街で彼女を見かけた日よりも、ずっと前から彼女のことを知っているのだ。
だが、それはクラスメートだからではない。
僕の知るクラスメート、もっと言えば学校の人といえば、数ヵ月前はゼロだった。
だが、今は三人だけ知っている。
それが東城美香、笹本達也、それに小野楓である。
全部、東城美香繋がりだ。
おそらく守木は今焦っている。僕の中の東城美香という存在を知って。
なぜなら、それは僕との仲にヒビを入れる存在だから。
「………蒼様、先方がこちらに気づいたようです」
不意に守木がそう言った。確かにさっきから目標の車はスピードを上げている。
しかし、別に焦る必要はない。
もう大体のことは分かっていた。後は僕だけでなんとかなる。
「そうか。なら今日のところは諦めて“見る”しかないな」
そう言うと守木が悔しそうに唇を噛むのが分かった。
「ここのところ、仕事を入れすぎてませんか?」
「いや、計画が前倒して第二段階に入った」
「そんなまさかっ。計画は第二段階までにあと五年はかかると___」
「紫がどうにかしたらしい。昨日あの人が言ってた」
「ゆか…り、ですか」
僕はそれに頷く。
正直これには僕も驚きだった。いくら紫といえど、そう早く都合のいい存在をこの日本でボンボン見つけられるわけがない。
人探しのプロでもいるのか?
僕はため息をついた。
紫はこちら側の人間だ。しかし、どうも僕は会ったこともないこの紫という人物が苦手だった。
というか、あの人のこの計画に心酔している天才だという時点で、僕は気持ちが悪かった。