透明人間の色




前は小野楓という女の子だったから、東城に友達が出来て良かったくらいにしか思ってなかったんだろう。



でも、僕は男である。

気に入らないのは当然だ。僕が逆の立場だったら、やはり同じことを思うだろう。

でも、だからといって僕は笹本を安心させるつもりはなかった。



「悪かったな、僕で。でも、東城が僕に頼んだんだ」



「………美香、なんでこいつなんだ?」

情けない声だ。
僕はチラリと東城美香を振り返った。


本当になんで僕なんだろう?


そして、僕は言葉を失う。

「達也には関係ない」
そう冷めたような台詞を言ったとは思えないほどの、感情的に歪んだ東城の顔に。



達也もそれに気づいたのか、黙り込んだ。
放課後の笑い声のノイズは遠くなる。全然静寂じゃないのに、僕は物音ひとつしない息苦しい世界に迷いこんだような感覚に陥っていた。

きっと、笹本も多かれ少なかれ同じような感覚になっているはずだ。僕らにとってそれくらい東城美香という存在は絶対だ。


いや、僕はその絶対の存在を今見失っているのだが。


「___じゃあ」
自分で作った沈黙を破った東城は、僕の手をとって笹本の前を通り過ぎる。

僕の背中には笹本の視線が刺さっていて、僕は振り返って笹本にべーっと舌を出したい気分になった。

なんでだろう。
僕の中の東城美香の絶対的位置は揺らいでいるのに、僕は少しだけ優越感に浸っている。



この感情はなんだろう。



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