透明人間の色




「怒ってる?」

僕はいかにも楽しげに前を歩く東城に聞いてみた。僕はこの時少しだけ得意になってたのかもしれない。


でも、僕は東城美香の少しだって分かってなかったのだろう。


「………怒ってる」

そう消えてしまいそうな声を全く予想していなかったのだから。


僕は内心焦っていた。なんで彼女は怒ってると言いながら泣きそうなんだろう?

もしこれが守木なら殴って終わるんだけど、東城が相手だと僕は殴っていいものか分からない。

だって、守木が泣くときは大抵が冗談で、嘘泣きだ。僕が軽く殴って、守木は声を上げて笑う。



守木が本気で泣いたのは出会った日のあの一回ぽっきり。


だから僕が泣いた守木を殴らなかったのも、一回ぽっきりだ。

あの日、僕はどうしたのだろう?

思い出せない。だから大したことはしてないんだと思う。



「東城___」



「なんてね………冗談。霧蒼、あなたに怒ってるわけじゃない」

僕は何か言おうとしたはずだったけど、東城がこちらを振り返ったことで、何を言おうとしたかなんて、まるで忘れてしまった。


でも、その代わりこの東城の笑顔は一生忘れないはずだ。





だって、こんな綺麗な笑顔、僕は他に知らない。





< 65 / 248 >

この作品をシェア

pagetop