透明人間の色
「怒ってる?」
僕はいかにも楽しげに前を歩く東城に聞いてみた。僕はこの時少しだけ得意になってたのかもしれない。
でも、僕は東城美香の少しだって分かってなかったのだろう。
「………怒ってる」
そう消えてしまいそうな声を全く予想していなかったのだから。
僕は内心焦っていた。なんで彼女は怒ってると言いながら泣きそうなんだろう?
もしこれが守木なら殴って終わるんだけど、東城が相手だと僕は殴っていいものか分からない。
だって、守木が泣くときは大抵が冗談で、嘘泣きだ。僕が軽く殴って、守木は声を上げて笑う。
守木が本気で泣いたのは出会った日のあの一回ぽっきり。
だから僕が泣いた守木を殴らなかったのも、一回ぽっきりだ。
あの日、僕はどうしたのだろう?
思い出せない。だから大したことはしてないんだと思う。
「東城___」
「なんてね………冗談。霧蒼、あなたに怒ってるわけじゃない」
僕は何か言おうとしたはずだったけど、東城がこちらを振り返ったことで、何を言おうとしたかなんて、まるで忘れてしまった。
でも、その代わりこの東城の笑顔は一生忘れないはずだ。
だって、こんな綺麗な笑顔、僕は他に知らない。