透明人間の色
それは前に一度だけ見たことがある、東城のことを知った日に見せたあの笑顔だ。
でも、あれは小野楓に向けられたものであり、僕はただ目撃してしまっただけのもの。
だから、今この瞬間、この笑顔が僕に向けられていることに、僕はどうしようもなく興奮した。
「自分に怒ってるのよ」
東城の自虐的な笑顔。
僕は人生で一番ゾクゾクした快感を覚えている。
「だと思った」
東城美香はこうでなきゃいけない。
でも、本当はこれも僕の思い過ごしだった。僕は東城のことをこの時何も分かってなかったから。
この笑顔が全て、笹本達也のために生まれたものだったなんて、知らなかった。
笹本達也だけが、東城美香の拾いものではないなんて、この時の僕が知る由もない。
「今日、会ってくれるのね?」
「もちろんだよ」
ただ、この時の僕は無敵だった。
知らない方が幸せ、なんて誰が考えた言葉なんだろう。
正論すぎて吐きそうだ。