透明人間の色
「そうだ、美術室に寄る」
東城がそう言った。
僕は首をかしげる。確か美術は三年になってからはなかったはずだ。
なのに東城はなぜ美術室に用があるのだろう。
「あー、私美術部」
何か察したように東城が答える。
なるほど。東城美香が美術部。だが、そんな事実は僕に何の感情も与えなかった。
黙っていると、東城美香が自虐的な笑顔で言った。
「どうでもいい?」
この時、僕はその答えに詰まった理由は、質問の内容じゃない。
「…まあね」
おかしい。
明らかにおかしかった。
そう感じたのはこれが最初だ。
さっきのも、今のも自虐的な笑顔なだったはずなのに、今の笑顔に僕は何も感じない。
東城美香に飽きた?
いや、そんなことはない。僕は東城美香に絶対的感情を抱いている。
こんな何もない数分で崩れるものではない。
だって、ここ最近の揺らぎでさえ、この感情を崩し得なかったのだ。今さらありえない。
まだ、この感情の正体は分かってないけど、それだけは分かる。