透明人間の色
「なに考えてるの?」
ホテルのロビーの心地よい椅子に座って、東城は言った。
だが、僕はこの質問に正直に答えるつもりは毛頭ない。
「何時に帰れるか、とか?」
「………そんなに忙しいの?」
「まあね」
それは多分嘘じゃないけど、東城にしてみれば嘘なんだろう。
僕は基本忙しい。だから、質問に対してだったら僕の答えは誠実だ。だが、今日も忙しいのかという東城の質問の意図を考えたとき、僕の答えは不誠実だ。
「じゃあ、なんで気が向いたの?」
曖昧に答えてしまったのがいけなかったのかもしれない。東城は珍しく僕の言葉を追及してきた。
でも、最初から来るつもりだったなんてダサいじゃないか。
だから僕は椅子の肘掛けに優雅に頬杖をついて、足まで組みながら視線だけ彼女にくれて見せた。
「気が向くのに理由が必要?」
カッコつけたかったけど、カッコついたかどうか、東城の顔では分からない。
「多分ね。天気が雨だったからとか、昨日のご飯がコンビニ弁当だったからとか」
「それが理由だったとしたら、言うまでもないんじゃないか」
「そう?」
首をかしげる東城が何を思っているのかなんて、さっぱり分からなかった。けど、分かりたいと思った。
東城の価値観が知りたい。