透明人間の色
正直言えば、知らなかった。
でも、そう言うのは癪だ。
黙って男を睨み付けると、男は苦笑いを返す。
「うん。美香ちゃんの両親が亡くなって、それで僕が引き取ったんだ」
こんな男の言葉なのに、なんて言えばいいのか分からなかった。
日本の中だけだって毎日人は絶えず死んでいる。
なのに一人の女の子の両親が亡くなっていたからといって、同情するのは僕の中のクソみたいな正義が許さない。
でも、東城が相手だとその正義が機能しない。
今すぐ抱きしめてあげたいような、そんな変な感情が僕を支配する。
でも、僕はそんなことしない。
代わりに棘のある一言を男にぶつけた。
「それで交際に発展するのは世間的にどうなの?」
そんなこと言ったら東城が傷つくかもしれないことは分かっていた。
大体、これが東城でなかったら、こんな話数分で忘れているであろう僕が、こんなことを言う資格もないのだ。
「うーん、まあそうだね。でも、誰に迷惑をかけるわけじゃない。………もちろん、君にも迷惑はかからないはずだよ」
完璧な笑顔と確かな拒絶。
僕は返す言葉もなかった。
今東城がどんな顔をしているのかを、僕は死んでも見たくない。
「それに、僕は実は初めて美香ちゃんに学校の友達をこうして紹介してもらってるんだ。もっと君とは楽しい話をしたい」
その笑顔に僕は思わず舌打ちする。
イケスカナイ。
この一言が目の前の男の全てだ。