透明人間の色
「晶人さん、本題に入ろう」
今まで黙っていた東城が、静かにそう言った。
僕が勇気を出して少し横目で見たら、本人は涼しい顔でオレンジジュースを飲んでいる。赤いオレンジジュースだ。
東城は美人だ。だからかもしれない。制服姿でも片手に赤いグラスを持てば、僕は少しドキッとする。
「うーん。美香ちゃんがそう言うならそうしようか。君もそれでいいかな?」
「………」
この男のせいで、それも台無しだけど。
「ん、ダメ?」
「…いいんじゃない?こっちだって早く帰れるなら帰りたいね」
僕は男の言葉を鼻で笑って見せる。
ただし、それはただの強がりだ。
本当は東城のために今日はずっと空けてあった。
だけど、きっと東城は今日のこれからをこの男のために使うのだろう。
邪魔者の僕はさっさと帰るってわけ。
そう考えると、なんだか惨めだ。
惨め、なんて今まで考えたこともなかったような言葉だけど、今の僕にはお似合いの言葉なんだろう。
そしてまた思うんだ。
僕は今日、何を期待していたのかと。