透明人間の色




「実は僕は塾の講師をやってるんだ」

どうでもいい。

「それで、勧誘なんかもよくやってるんだけど、なかなかこれが難しくてね」

これだから日本人は嫌なんだ。
早く結論を言ってくれ。

「美香ちゃんにもよく勧誘を手伝ってもらっていて、今回はイケメンを探してもらってたんだ。よく漫画で見るんだけど、イケメンのいる塾には人が集まるとか、そんな幼稚な発想なんだけどね」

よくしゃべる口だ。
噛んだら最高だったのに。

「つまり、君にはうちの塾の夏期講座に出てもらいたいんだ。もちろん無料だよ」

「………」

「美香ちゃんも来てくれるんだ」



「………東城も?」



僕の口から咄嗟に出たそれは、期待なんて何も含まれていない、言った僕も驚く冷たく低い声だった。

 
だからだろう。

今日初めて男の視線が僕を捕らえたような、そんな気がしたのは。


「うん?」



「なんで?なんで、東城もなの?僕と同じように東城が美人だから、とか?」



普段ならこんなこと言わない。東城が美人とか、そんな認めるようなこと言わない。


でも、今の僕は僕らしくないくらいに感情的だ。


こんなカッコ悪い正義感、僕は好きじゃないっていうのに。


「あはは。そうじゃないよ。美香ちゃんも受験生だし、__君も美香ちゃんがいた方がいいでしょ?」

僕はその質問に頷かなかった。



いや、頷けなかった。



よりによって、こんな得体の知れない東城の彼氏に、僕が東城に対して何か感情を持っていることを知られるなんて。


どこで間違った?


いや、ここに来た時点で終わっていたのかもしれない。

東城のお願いを聞いてしまった時点で、それは好意だ。
そう思うとゾッとした。

東城がこれまで勧誘してきた誰かは、ここで僕と同じようにこの男と対面させられて、試されて。




この男が敵と見なしたら、こんな風に笑顔の裏の、鋭い眼光で見られたのか?




その時、突拍子もないことが頭を過る。







だから、笹本達也は選ばれなかったのか___?





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