透明人間の色
3 君に夢中
「で、何があったんです?」
「別に。エセ塾講師に勧誘されただけ」
「その勧誘に乗ったんですか?」
「たぶんね」
僕の知らない曲が流れる車の中で、僕は目を閉じて、猫みたいな犬の質問に丁寧に答えてやっていた。
「機嫌が悪いのは、彼女に振られたからですか?」
「は?」
僕は思わず目を開けると、ミラー越しに守木と目が合ってしまった。
「…そうですか」
一瞬、僕じゃないと気づかないくらいの間があって、守木が先に視線を外した。
冗談じゃない。
「___僕はそんなこと一言も言ってない」
東城はただ特別なだけで、そんなピンクじみたものじゃない。
「そうですね」
「そうだよ」
「蒼様」
「なに?」
「少女漫画でもお貸ししましょうか?」
僕は前の座席を蹴った。
僕がこんな奴の言葉に労力を使うだけでも腹立たしいのに、僕の意志に反する言葉が繰り出されるのはもっと腹立たしい。
でも、こいつが僕について何かを決めつけるのが、一番嫌だった。