透明人間の色
「バカにすんな」
「してませんよ。喜ばしいことです」
「何がだよ」
僕はとぼけ続ける。
守木に決定的なその一言を言われたら、それを否定することは出来ないからだ。
僕とこの守木の間には明確な線引きがある。
僕たちの関係を名付ける線引きだ。
一つは、僕が上で守木が下であること。
そして、互いに嘘はつかないこと。
だから、僕が隠し事をするのは勝手だけど、僕が嘘をつくのは僕たちの関係に違反する。
とはいえ、守木がそんなふざけた質問をする可能性は極めて低かった。
僕との関係を壊す可能性が一ミリでもあるなら、守木はそれを好まない。
「ですか、東城美香でしたね」
彼女のフルネームを揺るぎなく言う守木は、今日という休日を僕とは違ってよほど効率的に使ったんだろう。
僕は東城と今日会ったけど、東城のことは分からなくなるばかりだった。
だから、守木が外側から東城のことを調べていたなら、それは僕よりよほど効率的なことなんだと思う。
「彼女はオススメしません」
そして、たぶんその守木がそう言うなら、それは事実なのだ。