透明人間の色
1 いつかの夏に終止符を
高校三年の夏休みが始まった。
一応進学校のうちの学校では暑い中、勉強しようと三年生がわざわざ登校してくる。
それに比べると塾は随分快適だった。
塾の夏期講座が始まったのは今日から四日前。
達也とのデートの日はいよいよ三日後に迫っているというのに、そんな実感は大学入試よりもなかった。
私は今日、夏休みに入って初めて霧蒼と会った。
相変わらずな顔をして、こんな暑い日に呼び出すなんてという顔をしている。
でも、私はそんな顔を見てついという風に笑ってしまう。
私が霧蒼に今日来て欲しいと言ったのは、五日前だ。一週間前と言われたのに、それを私は守らなかった。
わざとではない。
晶人さんがうっかり私に言うのを忘れていたらしい。
それでも、霧蒼を今日呼び出したのは来てくれる自信があったからだ。
霧蒼はそんな偽悪的な人だということが、私の中でまた証明された。
それを思うと、三日後に控えたデートも気が楽になる。
そして、そんな私は心底ズルい奴なのだ。
達也にも、霧蒼にも、もちろんなれない。
「お昼ある?」
私は自分の罪悪感を消すだけのために、隣に無言で座っている霧蒼にそう言った。
今日、霧蒼としゃべるのはこれが最初である。
「………聞いて何になるの?」
「私が霧蒼とお昼を一緒に食べられるかが分かる」
「僕は料理だけには口うるさいよ」
「料理だけ?」
「うるさい」
霧蒼はそう言って立ち上がった。
私は本気で怒らせてしまったのかと、少し後悔しながらその背中を見る。