透明人間の色
「なにこれ?」
霧蒼は店に来るなり黙ったと思ったら、その食べ物を前におもむろにそう言った。
「ハンバーガー」
律儀に私が答えてあげると、霧蒼はさらに顔をしかめる。
「そんなことは聞いてない」
「じゃあ、フライドポテト?」
「違うっ。僕の舌をこんな千円以下のもので、満足させられると思ってるのか?」
「うん」
「………帰る」
「まあ、食べて。きっと同じ人間だから、食べられないものじゃないとは分かるはず」
そう言って席を立とうとした霧蒼を、私はあの日と違って引き留めた。
私の手は、霧蒼のシャツをしっかりと掴んでいる。
「ほら」
「………」
霧蒼は立ち止まったけど、そこに立ったままだ。
私はため息をグッとこらえると代わりに言った。
「じゃあ、こんなのはどう?霧蒼がこれを全部食べたら、一つ言うことを聞いてあげるって」
「___それに東城のメリットはあるの?」
「ある」
その答えに私は迷わない。
私は私のメリットにならないことはしないのだ。なぜなら、私は自分が嫌になるほどの偽善者だから。
「忘れるなよ、約束だ」
随分とドラマチックな台詞だ。
実際はハンバーガーを食べるというだけの約束の話だったというのに。