透明人間の色
「うん。美味しいとは言ってない」
「は?僕は満足できるものって言った」
「ただの美味しいもので満足できる?」
「…どういう意味?」
訝しげな霧蒼に私はモナ・リザを意識して微笑む。
「意味なんてない」
このハンバーガーに意味はないのだ。
ただ、霧蒼が千円以下のハンバーガーをおいしいと思う人達に、囲まれているという事実があるだけで、何の意味も持たない。
「なんだよ、それ」
「誰かに意味付けされないければ、どんなものも意味のないものだってこと」
私がそう言うと、霧蒼がますます不機嫌そうな顔をした。黙々とハンバーガーを食べながら、難しい顔をしている。
でも、そんな顔をするから、私は霧蒼にこんな普段だったら言わないことを言いたくなるのだ。
だって、こんな謎なことを言ったら、他の人だったら軽く引く。
例外的に、達也や楓、晶人さんは私を嫌わないだろうけど、私のそんな言葉の真意を理解しようとは思わないだろう。
なにヘンナコト言ってるんだと笑って、私のその言葉はただ日常の色に染められて流されていく。
私はその時、多分笑って流されるのだと言う前から分かっていたとしても、空しくなる。
だから、心地よく流されてもいい言葉しか、私は三人に与えられなかった。
けど、霧蒼は私の言葉が理解できないことに顔をしかめてくれる。
それがどれほど嬉しいことかは、きっと誰にも分からない。
私の愛すべき日常はとても手放し難い。
けど、霧蒼のその顔さえあれば。
そう、いつのまにかそう思っている自分がいる。