透明人間の色



その日の夜、私は晶人さんに久し振りに家へ呼ばれていたのだ。

今日の霧蒼のことも知りたいとか。

霧蒼は楽しそうに授業を受けていたわけでもなかったけど、今さら辞めるとかも言わなさそうだから、今日の霧蒼と言われても何を言えばいいのかはよく分からなかった。

塾が終わって霧蒼と別れた後、晶人さんの車で家に来た。

開けると、最後に来たときより少し散らかった家。

私はまず、たまっていた食器類を洗った。それを晶人さんが満足そうに見ながら、お酒を飲んでいる。

来てみると、霧蒼の話をしたいというのはついでだったことが分かった。


考えてみればそうだ。
晶人さんとは一緒にいる理由がある。


「そう言えば、霧くんとどうして知り合ったの?」

出し抜けに晶人さんが聞く。


「忘れた」

嘘だった。
あんなの忘れるはずがない。

あの夜、晶人さんがすぐ迎えに来てくれた。

不意にあの時覚えた違和感を思い出したけど、それがどうしてかだったかなんて、もう分からない。

「えー、イケメンとの出会いは忘れないものだよ」

「そう?」

そんなことを言い出した晶人さんは少し酔ってるのかもしれない。

でも、それが嫉妬なら、私を試しているなら、私は嬉しい。


ただし、それは罪悪感を伴う。


「そうだよ。あっ、美香ちゃん。もしかして僕との出会いも忘れちゃった?」

「どうだろ」

「曖昧だなー。まあ、僕は美香ちゃんに嫌われてたし」

「……嫌ってはいなかった」

「えっ、そうなの?」

「たぶんね」

ただ、あの頃は少し余裕がなかった。


今も、それほどあるわけではないけど。



「じゃあ、いつから好きになってくれてたの?」


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