熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
それから三十分後――。
別邸の玄関先につけてもらった黒いベンツの後部座席に、私と優月は並んで乗り込んだ。


優月はしっかりと身だしなみを整え、どこから見ても完璧な『社長』の姿になった。
寝坊したせいで足りない時間を巻く為に、もちろん朝食は抜き。
とは言え、優月がどこか不機嫌で、ブー垂れた顔をしているのは、そのせいではない。


「いくらなんでも、気持ちよく寝てただけの人間に、朝っぱらからいきなり変態呼ばわりはないだろ」


窓枠に肘をのせて頬杖をつき、窓の外の車道を眺めながら優月はボソッと呟く。
そう、絶叫した後、私が浴びせたその罵声のせいだった。


けれど私は、顔を真っ赤にして抗議する。


「あ、朝からあんな物見せられた方の身にもなってくださいっ。って言うか、寒いならなんで服着て寝ないのよ!」

「寝る時どんな格好しようが、俺の勝手だろうが。第一、パンツは履いてたんだからいいだろ。昔は一緒にプール行ったこともあるし、あの時の海パンと同じじゃねーか」

「それとこれとは意味が違うの!」

「同じだって。それに、『あんな物』ってなんだよ。ケツがチラ見えしたくらいで、そこまで大騒ぎするか、普通」


優月は太々しく言い返してきながら、ハッと短い息を吐いた。
< 108 / 255 >

この作品をシェア

pagetop