熱情求婚～御曹司の庇護欲がとまらない～

優月には、マリーさんの怪我の経緯がまだ伝わっていない。
もちろん当事者の私が説明しなければいけないところだけど、なんと言えばいいのか自分でもわからなかった。


優月に説明するには、私がどうしてマリーさんの言葉に冷静になれなかったのか、その理由を言う必要がある。
自分でも理解し難い突然沸騰したような激情を、なんと言葉にしていいのか。
だから私は、顔を上げずに唇を噛んだ。


「綾乃」と返事を促すように、優月が私に呼びかける。
それでも黙っている私に代わるように、マリーさんが優月の背後から声をかけた。


「ユヅキ。アヤノを責めることないわ。ただの捻挫で、骨に別条はないんだから」


そう言われて、優月はゆっくりと彼女を振り返る。


「それより、疲れたわ。早く本邸に連れて行って」


優月を急かす声を聞いて、私の胸に何やら刺すような痛みが走る。
よくわからない痛みに胸を押さえ、私はそっと目線を上げた。


優月の向こう側に、わずかにマリーさんの姿が見える。
彼女は診察台の上で、両腕で膝を抱え込んでいる。
それを見て、優月も黙って溜め息をついた。


「……綾乃。悪いが、マリーの荷物、頼んでいいか？」

「は、はい」