熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
私が本社ビルに辿り着いた時、ビルのエントランスは予想に反して静かだった。
記事が載った週刊誌の発刊を差し止めることができたのか、それとも単に時間が早いせいか、この状況からはわからない。


とにかく私は、オフィスのある十五階のフロアに急いだ。
役員室と秘書室のあるフロアは、エントランスと違い、なんとなく物々しい空気が流れている。


秘書室長や課長も出勤しているのか、デスクの上に黒いカバンが置き去りにされていた。
もう役員も全員出勤しているのか、社長室が近付くにつれて、人の声が大きくなってくる。


いつもと違う空気が漂うオフィスに、私はほんのちょっと尻込みする。
けれど自分に『逃げるな』と言い聞かせて、私は社長室のドアを開けた。


「おはようござ……」


中途半端に挨拶の言葉を止めたのは、そこにいたのが優月ではなく、副社長と広報部長を務める執行役員、秘書室長と課長の四人だったからだ。


彼らはドア口で立ち尽くした私に一斉に顔を向けてくる。
四人の視線を一身に浴びて、私は一瞬身体を強張らせてから、直角に近い角度で頭を下げた。
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