熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
それを聞いて、私もドアレバーから手を引っ込める。


「でも……社長、紅茶の香りは気が休まるって仰ってますし……」

「いいから。それから、仕事モードの言葉遣いもやめろ。ますます疲れる」

「……はい」


優月が『疲れる』とはっきり口に出すからには、私の想像を遥かに越えて疲れているはずだ。
私は小さく返事をして、所在なくその場に立ち尽くした。


優月は私にチラッと視線を向け、『おいでおいで』と軽く手招きしている。
それを受けて、私もゆっくり彼の執務机の前に移動した。


優月は私に対して横向きのまま、まだ椅子をユラユラさせている。
顔は背後の窓に向けられている。
私はきゅっと唇を結んでから、思い切って声をかけた。


「優月、あの……」

「綾乃。今夜久しぶりに二人でディナーに行かないか?」

「え?」


『疲れさせてごめんなさい』と謝ろうとするのと同時に、優月から誘いかけられ、私はきょとんとして目を丸くした。
私が聞き返すのを聞いて、彼は椅子を回転させて私の方に身体の正面を向ける。


「お前、銀座にニューオープンしたイタリアン、行ってみたいって言ってたよな。早速予約入れるから」
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