熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
そう言いながら、優月は既にプライベート用のスマホを手に取って操作しようとしている。


「えっ……」


彼の言うイタリアンレストランは、二ヵ月前にオープンしたばかりで、半年先まで予約でいっぱいという人気店だ。
普通なら『今夜の予約が取れるわけがない』と笑って受け流せるところだけど、この人がフルネームを出せば不可能は可能に変わることを、私は昔から知っている。


「ちょ、ちょっと待って、優月!」


だから私は、慌てて一歩前に踏み出し、そう言って優月を止めた。
彼はスマホに指をスライドしかけたまま、チラッと私を見上げる。


「あの……ごめんなさい。今夜は、ちょっと」


首を縮めてペコッと頭を下げて謝る。
顔を上げてみると、優月がどこか訝しそうな表情をしていた。


「……先約?」


眉を寄せて訊ねられ、私はギクッとしながら、大きく何度も首を縦に振った。


「お、おお……おかしい? 私にだって、週末金曜日の夜にお酒……しょ、食事に行く友達くらいいるの」


じっとりした目で見つめられて、背筋に変な汗を掻きそうになりながら、私は声を裏返らせて胸を張った。
そんな私の前で優月は机に両肘をつき、『ふ~ん』と鼻を鳴らして両手の指を組み合わせた。
< 56 / 255 >

この作品をシェア

pagetop