熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
『この間も』という優月の言葉は正しいのか、進藤さんは特に表情も変えずに頷き返している。


「言ってたね。覚えてるよ」

「今まで俺になんの我儘も言ったことのない綾乃の申し出だったから、聞き入れた。それだけ」

「ゆ……優月?」


二人の間で淡々と交わされる会話に戸惑い、私は優月の横顔を見つめた。
そのタイミングで、ファーストドリンクが運ばれてくる。
店員さんが格子戸を閉めて出て行くのを見て、私たちはビールの中ジョッキを手にした。


なんとなく乾杯するような空気じゃなく、それぞれ黙ってジョッキを口に運ぶ。
私が一口飲む間に、優月と進藤さんはゴクゴクと何口か進めていた。
二人同時にジョッキをテーブルに置き「はあっ」と息を吐くのを、私は黙って見守る。


「俺が優月の立場だったら、確かに納得いかないね。優月が綾乃ちゃんをずっと大事にしてたのは、俺が見ててもよくわかってたから」


進藤さんが静かに紡いだ言葉に、優月はジョッキの把手にかけた指をピクッと震わせる。
私は優月と進藤さんに交互に視線を向けた。


「許嫁って紹介されたけど……。兄妹みたいで、将来二人が結婚するなんて信じられないほど」


進藤さんは優月から目を逸らしながらそう言って、再びジョッキをグッと呷る。
優月は黙ったまま、進藤さんをジッと見据えていた。
そんな優月に、進藤さんはニコッと笑う。
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