熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「おはよう」


彼が私の方に顔を向けながら、挨拶を返してくれた。
その声を聞いた途端、ドクッと胸の鼓動が騒ぎ出した。


「っ……」


思わず言葉をのんで、私はその場に立ち尽くしてしまう。
向けられる視線から逃げるように、反射的に目を逸らしていた。


視覚と聴覚で優月を認識した瞬間、金曜日の夜、唇に触れた感触まで、一気に蘇ってきた。
その反応で、優月にもバレバレだったんだろう。
彼の方も一瞬言葉に詰まって、勢いよく私に背を向けた。


「金曜日……いきなり悪かった」


意識的なのか、そうじゃないのか。
優月は口元を大きな手で隠し、ちょっとくぐもった声で謝罪を口にした。
そのまま、壁一面の窓ガラスから、朝のオフィス街の風景を見つめている。


急に体温が二度くらい上昇したように、身体が熱い。
頬が火照るのを感じる。
バクバクと騒ぎ出す胸の鼓動が、社長室に響き渡ってしまう気がして、私は気の利いた返事も思いつかない。


「い、いえ」


結局私は短い返事をしただけで、そそくさと自分のデスクに向かった。
椅子に座り、パソコンを起動させる。


週明け月曜日の朝は、いつもよりちょっとだけ忙しい。
週末のうちにスケジュールを変更しなければいけない連絡が入っていたら、すぐに対処しなければいけないからだ。
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