熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
一瞬の浮遊感の後、十五階に到着しドアが開く。
両側に開いたドアの向こうに、エレベーターを待っていたのか、私と同じ秘書室の五年先輩・聡子さんが立っていた。


「あら、社長、お疲れ様です」


このタイミングでいきなり声をかけられ、私も優月もハッと彼女に顔を向けてしまった。
勢いがつき過ぎたのか、笑顔だった聡子さんが確かに怯んだ顔をした。


「あ、あの。綾乃ちゃん、見つかって良かったですね……?」


聡子さんが優月に視線を向けながら、ちょっと遠慮がちにそう言った。
彼女の声かけで、会議を終えた優月が、わざわざ私を探してアトリウムに来たことを知った。


それに優月が「ああ」と短く答える。
素っ気なく顔を背け、聡子さんの横を擦り抜けるようにエレベーターから降りた優月に、彼女はますます不思議そうに首を傾げる。


「綾乃ちゃん? 社長、どうかした? なんか顔が赤かったみたいだけど……」


そう言いながら、聡子さんは私に視線を向けてくる。
そして、私の顔も赤いのを見て、きょとんと目を丸くした。


「……なあに? 二人とも……」


彼女の瞳に確かな好奇心が浮かび上がり、探るように訊ねてくるのを遮って、私は勢いよく頭を下げた。


「す、すみません。失礼します!」

「あ、綾乃ちゃ……」


呼び止めようとする聡子さんの横を、優月と同じように擦り抜ける。
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