父と息子
今日も父は、夜お遅くに帰ってきた。

珍しく僕は、無性に眠れなくて父が帰ってくる時間まで起きていた。


父が帰ってきたはずなのに下からは、物一つしない。
疲れてそのまま寝たのかな?

父に気づかれないように静かに階段を降りて
父のいるはずのリビングのドアを少し開けて見た。



ドアの隙間から父の座っている後ろ姿が見える。

父は、母の写っている写真が入った写真立てを持ちながらお酒を飲んでいた。

その父の背中が、いつもより小さく見えた。

「沙恵。
元気にしてるか?」
久しぶりに聞く優しい低めの父の声

「優太も私もお陰様で、元気にしてるよ。」
そう言って、少しお酒をおいて「はぁ〜」とため息をする。

「君が死んで今年で、6年が経った。

君が知ってる優太は、身長も伸びて 声変わりもして たくましくなって
だいぶん変わったよ。」

どうやら母さんに僕の事を話しているようだ。

「私は元々口下手で、あまりあの子と話せていないんだ。

あの子は、君のことが大好きだったね。

いつも「ママ。ママ。」って、私的には、少し寂しかったよ。」

父は、昔の話をするのが嫌いなのに自分で母さんに話してる。
お酒が入ったからかもしれないけど。

「君がいいた頃は、まだあの子に『パパ、パパ。』って言われてよく散歩に行ってたのになぁ。」
そう言うと、またお酒を飲み出した。

散歩?
父さんと僕が?
母さんと遊んだ記憶しかない。

なんで今こんなことになったんだろう。

なんでこんな家が静まり返ってるんだろう。
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