樫の木の恋(中)
「半兵衛と秀吉!こっちに来い。」
宴が始まってすぐに秀吉殿は何人かの家臣に囲まれていた。評定での話を聞きたい人、女としての秀吉殿に興味がある人、様々だった。
そんな家臣の人達から助けるかのように大殿の声が聞こえる。
正直呼んでもらえてありがたかった。
「人気じゃのぉ、秀吉は。」
「大殿が評定であのような質問をするからです。」
ふんっと言わんばかりにそっぽを向く秀吉殿に思わず心が踊る。そんな可愛らしい仕草、自分以外に見せてほしくなど無かった。
「朝まで半兵衛と助平な事をしとる秀吉が悪いんじゃよ。」
「なっ…!」
そうやってからかえる程、大殿の心は平気なのだろうか。
確実に横山城へと向かう前の日に二人で話した時、それがしが部屋を出るときに見た大殿の顔は酷く寂しそうだった。
大殿は濃姫という正室や、他にも側室がいる。それでも大殿は一番に秀吉殿を愛していた。
それなのに、こんな短期間で気持ちを切り替えられるものなのだろうか。
そんな疑問を持ってしまっていた。