樫の木の恋(中)


「……それにしても光秀が半兵衛のことを殺さんばかりに睨んでおったなぁ。」

周りに聞こえないよう、大殿が小さな声で呟くように話す。

「大殿も気づかれましたか。」

「まぁ光秀の反応を見たくて、あの場で秀吉を辱しめた訳だが。まぁ予想通りといったところか。」

何の話なのだろうと秀吉殿が交互にそれがしと大殿の顔を見ている。秀吉殿は気づかないだろうな、あんなに上がってしまっていたのだから。

「あの後明智殿が我々に声をかけてきました。」

「ほう、なんと?」

「大半は秀吉殿を口説いていただけですが、最後にマムシの名が出てきました。」

マムシの名前に大殿の眉がぴくりと動く。

「道三殿…?」

織田家は斎藤道三殿の代の時、斎藤家と同盟を結んでいたのだ。その時大殿は政略結婚として、道三殿の娘である濃姫を正室に迎え入れている。
その後、道三殿の息子の義龍殿が家督を継ぎ、隠居していた道三殿を叩き斬った事に怒った大殿が斎藤家との同盟を切ったのだった。

大殿は道三殿を尊敬していた。
だからこそ同盟を切った後でさえ、濃姫は今でも追放もされずに正室としているのだ。

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