樫の木の恋(中)
「そうだ!」
官兵衛がいいことでも思い付いたと言わんばかりに大きな声を出す。
「秀吉殿、女子の恰好をしてくださいよ!」
「なっ!」
官兵衛の発案に酔っていた秀吉殿が驚く。
「い、嫌じゃよ。」
「でも秀吉殿、半兵衛は喜びますよ?いつも男の恰好しかしない秀吉殿が、可愛い女の恰好をしたら嬉しく思うもんです。」
そう言われると秀吉殿がうっと黙ってから、体を乗り出し近いところでこちらを向く。
「別に見たくなんか…なかろう?」
少し潤んだ瞳でこちらを見てくる秀吉殿。
「一度も見たことがないので、見てみたいです。」
「ほらぁ。秀吉殿見せてあげた方がいいのでは?それがしも見たいですしね。」
官兵衛が楽しそうに言うと、秀吉殿はまた再びそれがしの肩に顔を埋める。
「うぅ…しかし…。もう何年もそんな格好しておらんから…。」
「駄目ですか?」
後ろにいる秀吉殿に言うと、秀吉殿は小さくふるふると頭を降った。
「しかし着物など持っておらんし…。」
「女中のものを借りましょう。」
そう言って官兵衛が女中を何人か呼ばせた。
「うぅ。仕方ないなぁ。」
そう言って秀吉殿は立って女中達に連れていかれた。