樫の木の恋(中)
「もう!人を笑いもんにしおってぇ。」
秀吉殿は拗ねながら、ぐいっと酒を飲む。それがしが注ぐと秀吉殿はまたそれも飲み干してしまった。
「秀吉殿、そんなに飲まれては体に障りますよ。」
「うるしゃい。そもそも半兵衛が見たいと言うかりゃ、着たのに。感想の一つもないんかぁ。」
秀吉殿は目を涙を溜めながらこちらを見てくる。それが非常に色っぽくて仕方がない。
「そうじゃよ半兵衛!半兵衛のために秀吉殿は着替えてくれたんだからな!しっかり言わないと。」
官兵衛の奴、完全に面白がっている。本当は二人の時に言いたかったのに。
「綺麗ですよ、凄く。可愛らしいです。」
「ほんとぉ?」
「ええ。…押し倒したい程です。」
秀吉殿だけに聞こえるよう押し倒したい程と言うと、秀吉殿は顔を真っ赤にする。ああ、やはり二人の時に言えば良かった。今この場では押し倒せないのがもどかしい。
「……馬鹿。」
そう言って秀吉殿は顔を見えないように、それがしの肩に顔を埋める。
耳まで赤く染めているものだから、官兵衛と三成がにやにやと笑っている。
あの二人は案外合うのではないだろうか。
そんな気がする。
「いいですなぁ竹中殿は。そんな可愛らしい殿にべたべたされて。」
三成が嫌味を口にする。にやにやとした顔の奥に、嫉妬が垣間見えている。